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素粒子実験についての質問へのお答え

ヒッグス粒子の「発見」に見る科学の仕組みについて質問をいただきました。

長文になりますのでこちらで答えます。
(読みやすいように、質問の一部に改行を加えさせていただきました)

質問です:
ピンセットあるいは箸で豆を一つずつつまみます。
むかし一般読者向けの本を読んだ時のことです。

電子を壁にぶつけます。その壁には穴があいています。「一個ずつ壁にぶつけていくと、壁の後ろのスクリーンに電子が衝突した点ができます。電子は粒子です。これをずっと続けていくと、スクリーンに波が表れるという実験です。つまり電子は粒子でもあり波でもあるというお話です。

そのとき疑問に思ったのは、「電子は小さすぎて、豆のように一個ずつはつまめない」となにかで読んだ記憶があります。「電子を一個ずつ・・・」というのは、確率的なことですか? これが質問です。

おっしゃるとおり「電子は豆のようにつまめない」のは本当です。

物理的なピンセットはどんなに細くても陽子1個分の大きさを持ちますから、それよりも小さい電子をつまむことはできません。

というよりも、電子くらいのサイズになると不確定性原理による揺らぎが大きく、位置が確定しませんので「つまむ」という操作は不可能です。

ただしそれは物理的なピンセットの話で、電磁場によるトラップ(捕まえること)は可能かもしれません。電磁場によって原子核を捕まえる装置(光ピンセットと呼ばれます)は実際に研究でも使われています。
ただ電子1個のトラップができるかどうかというと知識が及ばず答えられません。

なお「スクリーンに波が現れる」という、いわゆるヤングの実験ですが、これは電子を1個ずつぶつけています。

といってもピンセットでつまむわけではなくて、電子銃という装置を使います。

物質を熱すると、運動エネルギーをもった電子が表面から飛び出します。
その電子を、電場で加速して打ち出す装置が電子銃です。ブラウン管テレビにも使われています。
(別の原理で作動する電子銃もありますが、とにかく電子を打ち出す装置が電子銃だと思ってください)

電子銃は(かける熱を調整したりすることによって)電子を1個ずつ飛ばすことができますので、「一個ずつ壁にぶつけていく」という操作が可能です。
そして、1個ずつぶつける操作を何度もくり返した場合であっても波模様ができることがわかり、1個の電子が単体で波の性質を持つことが分かりました。

☆さて同様に陽子です。陽子を光速に近い速さでぶつけあうということは、一個ずつぶつけることなのか、それともこれも確率的なことで、つまり「これだけ○○○を放出すると、電子が何個は含まれているから云々」という確率的なことなのでしょうか。

実験的には、陽子1個と陽子1個をぶつけるというのは技術的に非常に難しいため、ある程度の数の陽子のカタマリ同士をぶつけます。

このカタマリを「バンチ」と呼びます。1バンチあたりには陽子が約100~1000億個(1010~1011個)含まれています。
1つのバンチの大きさは数十マイクロメートル四方くらいですので、2つのバンチを衝突させるには熟練の技術が必要です。

バンチ同士が衝突したときにも1000億個の陽子すべてが反応(衝突)を起こすわけではなく、衝突反応を起こすのは1バンチの衝突あたり陽子数個くらいです。
この衝突確率も理論的に計算することができます。

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